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大阪地方裁判所 昭和53年(行ウ)19号 判決

東大阪市長田内介六七番地

原告

長坂二男

右訴訟代理人弁護士

香川公一

服部素明

同市永和二丁目三番八号

被告

東大阪税務署長

中西久司

右指定代理人

浦野正幸

国友純司

高見忠男

田中邦雄

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

(一)  被告が昭和五一年二月一六日付で原告に対してした、原告の昭和四七年分及び昭和四九年分の所得税についての更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取消す。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  請求の趣旨に対する答弁

二  原告の請求原因

1  原告は鉄骨工事業を営む者であるが、昭和四七年分の総所得金額を二一〇万円、税額を一六万三二〇〇円、昭和四九年分の総所得金額を二〇〇万円、税額を一〇万五六〇〇円とする所得税の確定申告をいずれも法定申告期限までに行なったところ、被告は昭和五一年二月一六日付で、原告の昭和四七年分の総所得金額を四四三万〇四四二円、税額を六四万五〇〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税二万四〇〇〇円の賦課決定処分、昭和四九年分の総所得金額を四六六万三六三五円、税額を五八万〇一〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税二万三七〇〇円の賦課決定処分(以下、本件各処分という)をした。

これに対し、原告は昭和五一年三月一五日異議申立をしたが、被告が同年六月二四日右異議申立を棄却する旨の決定をしたので、更に原告は同年七月二二日審査請求をしたが、国税不服審判所長は昭和五二年一二月一二日右審査請求を棄却する旨の裁決をし、原告は同月末日頃右裁決書謄本を受領した。

2  しかし、本件各処分は次のとおり違法であるので、原告は被告に対し本件各処分の取消を求める。

(一)  被告は、所得税の調査に際し原告の主張を十分聴取せず、一方的になしたずさんな反面調査に基づき本件各処分に及んだものであり、更正処分等の手続要件である適正な手続履践を欠いている。

(二)  被告は本件各処分をするに際し、収入金額を多大に、外注費、支払利子等を過少に評価して、原告の所得金額を過大に認定した。

三  請求原因に対する被告の答弁及び主張

1  請求原因1項の事実は認め、同2項は争う。

2  被告の部下職員は、係争各年分の所得税の調査のため数回にわたり原告宅に臨場し、原告の所得金額算定の基礎となる帳簿、領収証、請求書等の呈示を求めたが、原告がこれに応ずることなく、また取引内容の説明もせず協力しなかったので、やむなく原告の取引先等について反面調査を行ったのであり、被告が右反面調査の結果に基づき原告の所得金額を算定し、本件各処分をしたことには何らの違法もない。

3  原告の各係争年分にかかる総所得金額は次の表のとおりであり、その範囲内でなされた本件各更正処分及びこれに伴う本件各過少申告加算税賦課決定処分は、何ら違法でない。

〈省略〉

4  右の事業所得金額の計算根拠は別表一の被告主張額欄に記載のとおりであり、そのうち収入金額の取引先別明細は別表二の、外注工賃の取引先明細は別表三の各被告主張額欄に記載のとおりである。

(一)  昭和四七年分の一般経費については、原告の同年分の事業形態及び内容等には昭和四九年分のそれと異なる特段の事情も認められないので、昭和四九年分の一般経費率を適用して推計するのが合理的であるところ、同年分の一般経費二七九万二一八八円(原告自認額)の純収入金額三八六三万九五一〇円(収入金額三九一八万三四五〇円から雑収入である太陽住宅株式会社(以下、太陽住宅という)からの受取利息収入五〇万円と株式会社橋詰電気工業所(以下、橋詰電気という)からの謝礼収入四万三九四〇円の合計五四万三九四〇円を控除した額)に対する割合は七・三パーセントであるから、昭和四七年分の収入金額六四二三万三〇七二円に右割合を乗じて算出した。

(二)  係争各年分の高倉組に対する外注工賃はいずれも存在しない。もっとも、被告は当初原告主張額の昭和四七年分一九六万円、昭和四九年分一〇〇万円の存在を認めていたが、これは真実に反しかつ錯誤に基づくものであるから、第一八回口頭弁論期日(昭和五六年九月三〇日)において従前の主張を撤回した。

(三)  昭和四九年分の支払利子割引料につき、原告は資産取得のための借入金利子の存在を主張するが、資産取得のための借入金利子を事業所得金額計算上の必要経費に算入するには当該資産を業務の用に供していることを要するところ、原告は昭和四九年中には右資産を業務の用に供していなかったから、右借入金利子は必要経費と認められない。

(四)  昭和四九年分の収入金額についての原告の自白の撤回には異議がある。

四  被告の主張に対する原告の答弁及び主張

1  本件課税の調査手続の適法性については争う。

2  原告の各係争年度分にかかる総所得金額のうち、事業所得金額については争い、昭和四九年分の利子所得金額については認める。

3  右の事業所得金額の計算根拠についての認否ないし主張は、別表一の原告主張額欄に記載のとおりであり、そのうち収入金額の取引先別明細についての認否ないし主張は別表二の、外注工賃の取引先別明細についての認否ないし主張は別表三の各原告主張額欄に記載のとおりである。

(一)  昭和四七年分の仕入金額は、被告主張額以外に鉄骨の仕入代金が存在する。

(二)  同年分の一般経費につき、被告の算出方法自体は一応是認できるが、昭和四九年分の一般経費率は原告主張の収入金額を基礎にした八パーセントとすべきである。

(三)  昭和四九年分の収入金額につき、太陽住宅、宮田義和、橋詰電気、横田久子からの分はいずれも存在しない。もっとも、原告は当初被告主張額の存在を認めていたが、これは真実に反しかつ錯誤に基づくものであるから、第九回口頭弁論期日(昭和五四年一二月一九日)において従前の主張を撤回した。

(四)  昭和四九年分の支払利子割引料二二三万七〇八〇円のうち一七九万九四一二円は、原告が東大阪市小若江二丁目一五二番四一宅地二二一・三八平方メートル(以下、本件土地という)を事業用に取得した際の借入金について、これに対する利子として同年中に支払ったもので、本件土地は同年中には鉄骨置場等として使用していた。残余の四三万七六六八円は右以外の支払利子及び割引料である。

(五)  係争各年分の高倉組に対する外注工賃についての被告の自白の撤回には異議がある。

五  証拠関係

本件訴訟記録中の書証目録、証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1項の事実は当事者間に争いがない。

二  調査手続の適否について

1  成立に争いのない乙第一号証、乙第四ないし第七号証、証人平尾芳三の証言及び原告本人尋問の結果(第一回)によれば、当時被告の職員であった平尾芳三は、原告の昭和四七年ないし四九年分の確定申告書には収入金額や必要経費の記載がなく、所得金額算出の過程が明らかでないことや、原告が昭和四八年五月に本件土地を購入していることから、原告の昭和四七年ないし四九年分の所得金額を調査することとし、昭和五〇年五月末頃以降三回にわたり原告宅に臨場し、内二回にわたり原告と面談のうえ原告に対し、昭和四七年ないし四九年分の所得金額算定の基礎となる帳簿、領収証、請求書等の呈示を求めたが、原告は調査理由が不明であるので調査には協力できないと言ってこれを拒否し、取引内容の説明にも応じなかったので、平尾はやむなく原告の取引先等の反面調査に着手したこと、その後、平尾が昭和五〇年一〇月中頃原告宅に臨場した際、原告が便せんに記載した昭和四九年分の簡単な収支明細書を呈示したので、平尾はその内容の正確性を確かめるため、原告に対してその裏付資料となる帳簿書類等の呈示を求めたが、原告は一部小額の領収証を呈示しただけであり、その後も平尾が数回にわたり原告宅に臨場した際に、原告に対し右収支明細書の根拠となる資料の呈示を求めたが、依然として原告の協力を得られなかったこと、そこで、被告はやむを得ず、原告の取引先等の反面調査をした結果に基づき所得金額を算定し、昭和五一年二月一六日本件各処分をしたこと、以上の事実が認められる。

2  ところで、事業所得金額の実額による計算は、納税者が課税庁に対して収入及び支出の明細を明らかにし、所得金額の計算に必要な帳簿、領収証、請求書等を呈示したうえ、取引内容の説明にも積極的に応じる等、課税庁の調査に協力して初めて可能となるところ、前記認定事実によれば、原告がこれら被告の調査に協力しなかったのであるから、被告が原告の取引先等の反面調査の結果に基づき所得金額を算定し、本件各処分をしたことについては、何らの違法もない。

三  原告の昭和四七年分の総所得金額について

1  別表一の被告主張額欄記載の金額のうち特別経費二九六万八一二〇円(その内訳を含む)、別表二の被告主張額欄記載の金額のうち持田工務店、太陽住宅以外の分、別表三の被告主張額欄記載の金額のうち高倉組、前田勝以外の分については、当事者間に争いがない。

2  収入金額について

(一)  持田工務店関係

成立に争いのない乙第九、第一三、第二四号証及び証人平尾芳三の証言によれば、持田工務店からの収入金額は一六三三万九〇〇〇円であることが認められる。原告は、右収入金額は一五九一万六〇〇〇円であると主張するが、これを裏付けるに足りる具体的な証拠がない。

(二)  太陽住宅関係

前掲乙第九号証、乙第二四号証及び証人平尾芳三の証言によれば、太陽住宅からの収入金額は三九八四万七四三二円であること、右金額は平尾が昭和五〇年夏頃太陽住宅へ臨場して反面調査を行った際、同社保存の振替伝票に基づき原告との取引金額及び決済状況を調査して確認したものであること、原告は異議決定書(乙第九号証)に記載された右金額について、大阪国税不服審判所国税審判官に対する昭和五一年九月八日付回答書(乙第二四号証)の中でこれを肯認していることが認められる。

もっとも、原告は右収入金額は三七一六万四〇〇〇円であると主張し、甲第七、八号証の各一ないし九を証拠として提出しているが、これに記載されている領収額と請求額との対応関係が原告本人尋問の結果(第一回)をもってしても不明確であるのみならず、請求書の記載内容にも四か月分を順不同に一括記載するものがある等不自然な点があり、前記のごとく原告は審査請求の段階で被告主張額を争わなかったことをも併せ考えると、右甲号証の信用性には疑問を抱かざるをえず、これに依拠した原告の主張は採用しがたい。

(三)  以上によれば、前記当時者間に争いがない分を含めた収入金額は、被告主張額の六四二三万三〇七二円となる。

3  仕入金額について

原告は、被告主張金額以外に鉄骨の仕入代金があると主張するのみで、その具体的な主張立証をしないので、被告主張の仕入金額一二六二万六三三二円を正当と認めざるを得ない。

4  一般経費について

被告は、原告の昭和四七年分の事業形態及び内容等は昭和四九年分のそれと異なる特段の事情も認められないので、昭和四九年分の一般経費率を適用して昭和四七年分の一般経費を推計するのが合理的であると主張し、原告も右算出方法自体は一応是認できるとして右推計方法の合理性を認めている。そこで、これに従って一般経費の額を算出するに、昭和四九年分の収入金額が三七八七万六四五〇円、一般経費が二七九二一八八円であることは後に認定するとおりであり、右収入金額のうち雑収入五四万三九四〇円(後に認定する太陽住宅からの受取利息収入五〇万円と橋詰電気からの収入四万三九四〇円の合計額)を控除した純収入金額は三七三三万二五一〇円であるから、右一般経費の純収入金額に対する割合七・四八パーセントを昭和四七年分の前記収入金額六四二三万三〇七二円に適用すると、同年分の一般経費は四八〇万四六三四円となる。

5  外注工賃について

(一)  前田勝関係

原告は、前田勝に対する外注費二五五万円の存在を主張するが、成立に争いのない乙第一二号証、前掲乙第二四号証によれば、原告は審査請求の段階では右主張を全くしていなかったことが明らかであり、右金額が高額であることから考えると、このような外注工賃の存在には大いに疑問がある。

しかも、原告主張に沿う甲第三号証の記載と証人前田勝の証言、原告本人尋問の結果(第一回)は、弁論の全趣旨により成立を認めうる乙第三八号証、証人永瀬敏夫の証言と対比してたやすく措信しがたい。すなわち、甲第三号証には前田が原告依頼の三国マンション付属工事を二五五万円で受注完工した旨の記載があり、証人前田は、原告が太陽住宅から請負った三国マンション建設鉄骨工事の下請けとして、昭和四七年六、七月頃ラスキン取付工事、ALCアングル取付工事、ダストシュート工事及びその他の雑工事を代金二五五万円で受注施工した旨証言し、原告本人(第一回)は、三国マンション鉄骨工事を下請けさせた永瀬鉄工の工事が極めてずさんで太陽住宅の査定が通らなかったので、ラスキン工事、ダストシュート工事及びその他の雑工事の手直し工事を前田に依頼すると共に、太陽住宅から追加注文を受けたALC工事も同人に依頼し、これらの工事代金として二五五万円を支払ったと供述しているが、一方、証人永瀬(前掲乙第三八号証中の同人の供述を含む)は、永瀬鉄工が原告から請負った三国マンション鉄骨工事一式は、ラスキン工事、ALC工事及びダストシュート工事を含めて契約どおりに施行の上、昭和四七年五、六月頃原告に引渡したが、その際工事の出来具合についてのトラブルは一切なく、原告から工事代金全額を受取っている旨供述しているところ、前記甲第三号証は前田が後日になって作成した書面に過ぎないし、仮に原告本人の供述どおりラスキン工事、ダストシュート工事等の手直し工事を前田に依頼したのであれば、永瀬鉄工の債務不履行に起因するものとして手直し工事のために要した費用(前田証言によれば二〇五万円相当)を永瀬鉄工の請負代金三〇二五万円(同金額は当事者間に争いがない)から差引くはずであるのに、原告本人は永瀬鉄工に対して三〇二五万円全額を支払ったと供述しているのであって、この点非常に不自然であり、むしろ、原告が永瀬鉄工に対して請負代金を全額支払っていることからして、永瀬の証言(供述)に信をおくことができる。また、仮に原告本人の供述どおり太陽住宅からALC工事の追加注文があったので同工事を前田に依頼したのであれば、当初の請負代金に含まれていない右工事代金(前田証言によれば五〇万円相当)を追加請求すべきであるのに、原告は太陽住宅に対して右請求をしていない旨供述しているのであって、これによれば、右工事は当初から太陽住宅との請負契約の内容に含まれており、永瀬が供述しているように永瀬鉄工が施行したものといわざるをえない。

従って、前田勝に対する外注費二五五万円の存在は認めがたい。

(二)  高倉組関係

被告は、当初原告主張の高倉組に対する外注費一九六万円の存在を認めていたが、右自白を撤回しているので、その可否について検討する。

(1) 原告本人(第二回)は、高倉組に対する外注費一九六万円は全額原告振出の小切手で支払ったが、高倉組が銀行口座を開設していなかったので小切手の裏面に原告印を押印して高倉組に交付し、高倉組はこれを原告の取引銀行である協和銀行長瀬支店に持参して現金化していたと供述しており、甲第二一号証にも高倉組は原告発行の小切手を右支店に持参して現金化した旨の記載がある。しかし、これによれば小切手は結局原告自身が取立てたことになり、右事実だけから高倉組に対する支払にあてられたと見るのは困難であるし、高倉組が銀行口座を開設していなかったというのも疑問であり、右のような支払方法自体極めて不自然な感を拭えない。

(2) 原告本人(第一回)は、高倉組からは一部請求書や領収証をもらっていて、現在も多分保存していると思うと供述しているが、原告は、高倉組以外の分では請求書や領収証等を書証として提出しているのに、高倉組の関係では結局本訴口頭弁論の終結に至るまで書証を提出しなかった。このことは、原告の右供述の信用性のみならず、高倉組に対して外注費が存在するとの原告の主張事実自体についても疑義を抱かせるものといえる。

(3) 原告本人(第一回)は、太陽住宅から受注した工事のうち三国マンション建設工事については永瀬鉄工に一括下請させたのでとび職人を雇わなかったが、それ以外の工事では五〇万円ないし六〇万円を、持田工務店から受注した工事については約一〇〇万円を、その他につき四〇万円前後をいずれも外注費として高倉組に支払った旨供述している。しかし、太陽住宅関係では、同社に対する請求書である甲第七号証の一ないし九には右のような多額の費用をかけてとび職人の雇入れを必要とする工事は見当らないし、持田工務店関係については昭和四十七年分の請求書が証拠として提出されていないので、受注工事の明細が明らかでなく、その他の受注先と考えられる松原工務店と北次清太郎関係についても、受注工事の内容が不明であり、原告本人の供述を裏付けるに至らない。なお、前記甲第二一号証には、太陽住宅、持田工務店を初め原告の大部分のとび、鍛冶工事は高倉組が下請施行した旨の記載があるが、工事の明細や工事金額の記載がない上、右書証が昭和五八年一月二一日付の作成であることからいっても、にわかに信を措きがたく、原告本人の供述はこの面から見ても疑問を抱かざるをえない。

してみると、高倉組に対する外注費一九六万円の存在についてはこれを認めることができないものであり、被告のした自白は真実に反しかつ錯誤に基づくものと認められるから、右外注費についての原告の主張は失当というべきである。

(三)  以上によれば、前記当時者間に争いがない分を含めた外注工賃は、被告主張額の三四四四万二一五六円である。

6  そうすると、原告の事業所得金額は、前記2の収入金額六四二三万三〇七二円から、前記3の仕入金額一二六二万六三三二円、4の一般経費四八〇万四六三四円、前記当事者間に争いがない特別経費二九六万八一二〇円、5の外注工賃三四四四万二一五六円を控除した九三九万一八三〇円となり、右金額が昭和四七年分の総所得金額である。

四  原告の昭和四九年分の総所得金額について

1  利子所得金額二二万五〇〇〇円、別表一の被告主張額欄記載の金額のうち仕入金額九九六万〇九九四円、一般経費二七九万二一八八円、特別経費の内訳のうち支払利子割引料以外の分、別表二の被告主張額欄記載の金額のうち持田工務店、太陽住宅、宮田義和、橋詰電気、横田久子以外の分、別表三の被告主張額欄記載の金額のうち高倉組以外の分については、当事者間に争いがない。

2  収入金額について

(一)  持田工務店関係

持田工務店からの収入金額につき被告は三二五〇万円と主張するのに対して、原告は三一五〇万円と主張しているが、前記乙第一三号証、成立に争いがない乙第二三号証の一ないし九によれば、右収入金額は三二五〇万円であることが認められる。

もっとも、甲第五、六号証(請求書)から算出される入金額はこれと異なるが、右書証は昭和四九年一月から六月まで、同年七月から昭和五〇年七月までの工事代金をそれぞれ一括して記載したもので、請求額ひいては内入金額の記載もれの可能性を否定できないから採用しがたい。また原本の存在と成立に争いがない甲第一三号証によると、持田工務店が原告に下請させた西久保ガレージ工事(代金一〇八万三〇〇〇円)は昭和四八年一二月に完成していることが認められるが、同号証によると請負主に対する引渡は昭和四九年一月であり、持田工務店における外注費の計上も同月として処理されていることが明らかであるから、右収入の確定時期は昭和四九年分に属するというべきであり、完成時期のみを捉えて右工事にかかる収入金額を昭和四九年分の収入金額から差引くのは相当でない。

(二)  太陽住宅関係

被告主張の太陽住宅からの収入金額二七六万五六〇〇円について、原告は当初これを認めていたが、右自白を撤回し右収入金は存在しないと主張している。この点につき証人尾島広子、同板場清治及び原告本人(第一回)は、原告が太陽住宅の下請工事をしたのは昭和四八年までであり、昭和四九年一月一日以降は太陽住宅との取引はない旨供述し、甲第一〇号証にも同旨の記載があるが、これらは以下の諸点と対比して措信しがたく、かえって、証人西村敏昭の証言により成立が認められる乙第一六号証の一、二、乙第一七号証の一ないし四、乙第一九号証及び証人西村敏昭の証言によれば、太陽住宅の経費明細帳には、工賃勘定として昭和四九年四月一八日付及び五月三一日付で原告に対する工賃一四四万四七五〇円及び八二万〇八五〇円の発生が、支払利息勘定として同年二月五日付で原告に対する支払利息五〇万円の発生がそれぞれ記載されていること、もっとも、右工賃については未払金として計上処理されているが、証人尾島がいうように支払手形を未払金に振替えたのであれば、帳簿上は支払手形勘定と未払金勘定相互の処理をすべきであり、それが工賃勘定に出てくるはずがないこと、太陽住宅の損益計算書(自昭和四九年二月一日至昭和五〇年一月三一日)記載の工賃五一五六万六七五〇円は、経費明細帳の工賃勘定末尾に記載の合計額と一致していることが認められる。従って、太陽住宅からの収入金額二七六万五六〇〇円が存在することになり、原告の自白の撤回は許されない。

(三)  宮田義和関係

被告主張の宮田義和からの収入金額一〇〇万円について、原告は当初これを認めていたが、右自白を撤回し右収入金は存在しないと主張しているので、検討する。

まず、成立に争いがない乙第一五号証の一ないし四によれば、宮田義和名義の協和銀行守口支店普通預金口座から昭和四九年九月九日一〇〇万円が出金された上、即日右金員が原告名義の右支店普通預金口座(以下、本件預金口座という)に入金されていることが認められるところ、原告本人(第一回)は、宮田なる人物は全く知らず、本件預金口座も原告のものでないと供述している。そこで本件預金口座が原告のものか否かについて考えるに、官署作成部分の成立は争いがなく、その余は弁論の全趣旨により成立を認めうる乙第二〇、二一号証の各一、弁論の全趣旨により成立を認めうる乙第二六号証の一、成立に争いがない同号証の二、前記乙第二三号証の八によれば、原告が自認している北次清太郎からの収入金六二万二九〇〇円が北次産業株式会社振出の小切手で、持田工務店からの前記認定の収入金の一部である五〇万円が同工務店振出の小切手で、それぞれ本件預金口座に入金されていることが認められ、また成立に争いがない乙第二七号証の一ないし四、弁論の全趣旨により成立を認めうる乙第二八号証、第二九号証の一、二によれば、本件預金口座開設時の届出印鑑と原告発行の持田工務店あて領収書に押捺されている原告印の印影とは同一の印章によるものであるとの鑑定がされているので、その限りにおいて本件預金口座は原告のものと考えて何ら不合理はない。しかし、他方において、前記乙第二八号証、証人尾島広子の証言によれば、本件預金口座の原告の住所は太陽住宅の当時の本店所在地と同一場所であることが認められ、証人板場清治、右尾島は、太陽住宅が倒産後同社の資金管理のため、経理担当の鈴木慎太郎が下請業者の債権者代表である原告や宮田らの名義を借用して普通預金口座を開設したことがあり、本件預金口座もそのひとつである旨証言していること、宮田名義の前記預金口座についても、前記乙第一五号証の三(印鑑届)に記載の同人の住所は太陽住宅の本店所在地と同一場所であり、右印鑑届の筆蹟は本件預金口座の印鑑届(乙第二八号証)の筆蹟と酷似しているところ、証人尾島、板場は右筆蹟は鈴木の部下上田某のものであると証言していること、乙第三四号証には、太陽住宅の債権者である楢原タイルにおいて債権回収の手段として太陽住宅に対する債務を立替払するため本件預金口座に入金した旨の記載があること、原告本人(第二回)は、太陽住宅倒産後下請業者である債権者の代表に選ばれて債権回収の任に当った旨供述していることからすると、本件預金口座は倒産後の太陽住宅又はその債権者グループの資金管理の必要上開設されたもので、太陽住宅の鈴木において原告の名義を利用したとの可能性を否定できない。なお、原告本人(第一回)は、前記の北次産業と持田工務店の小切手につき、太陽住宅に頼んで現金化した旨供述しているところ、成立に争いがない甲第一一号証の一、二によると、本件預金口座では右に相当する他店券による入金と同じ日に同額の金員の出金がなされていることが認められるから、少なくとも右供述に符合する外形的事実があることになり、原告の依頼を受けた太陽住宅の担当者が右小切手の換金手段に本件預金口座を利用したと考えても何ら不自然ではないし、前記鑑定についても、印影のコピーを資料にしたもので、印影からうかがわれる印章自体もありふれた認め印であることからして、鑑定結果には疑問の余地もあり、結局、本件預金口座を原告のものと認めるのは困難というべきである。

右に述べたように、本件預金口座が原告のものと認めがたい以上、宮田名義の預金から出金された一〇〇万円が本件預金口座に入金されたからといって、これが原告の収入となるものではなく、むしろ前記証拠関係からすると、右出入金は太陽住宅又はその債権者グループの資金操作としてなされたに過ぎないと解される可能性が多分にある。

なお、原告の自白は、本件記録によると被告主張の雑口収入金一四五万四六四〇円の存在を認めたものであって、宮田からの収入一〇〇万円と明示された主張を認めたわけではなく、その後被告において右雑口収入の内容を明らかにしたために、宮田からの収入金を自白した結果になったことが明らかである。

以上によれば、原告の自白の撤回は真実に反しかつ錯誤に基づくものであり、被告主張の宮田からの収入金額一〇〇万円は存在しないといわざるを得ない。

(四)  橋詰電気関係

被告主張の橋詰電気からの収入金額四万三九四〇円について、原告は当初これを認めていたが、右自白を撤回し右収入金は存在しないと主張する。

成立に争いがない乙第一〇号証、前記乙第一五号証の一、原本の存在と成立に争いのない甲第一二号証の三、原告本人尋問の結果(第二回)により成立が認められる同号証の一、二、弁論の全趣旨により成立が認められる乙第三六号証の一、二、乙第三七号証、証人板場清治の証言、右原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、太陽住宅の債権者らが昭和四九年一一月初旬頃に一泊の慰安旅行をした際、債権者の一人であった橋詰電気からも参加者があり、右旅行費用の分担金四万三九四〇円が橋詰電気の小切手で同年九月一三日本件預金口座に入金されたこと、右旅行の総費用三三万円について、原告は異議申立の段階で自らの支出した交際接待費として申立てていたが、本件における昭和四九年分の一般経費二七九万二一八八円(当事者間に争いのない金額)には右三三万円が含まれ、原告の申立が認容されていることが認められる。これに反する甲第一二号証の四、乙第三三号証の記載は、前記甲第一二号証の一、三の記載、証人板場の証言及び前記原告本人尋問の結果と対比して措信しがたい。

右認定事実によれば、橋詰電気が支払った四万三九四〇円は慰安旅行の費用に充てられたものであるが、旅行費用そのものは原告自身の支出にかかるものとして処理されていることになるから、原告の収入と認めるのが相当である(なおこれを原告の収入と認めたからといって、右金員が入金された本件預金口座が原告のものと認めがたいとした前記判断とは、何ら矛盾しない。)。原告の自白の撤回は許されない。

(五)  横田久子関係

被告主張の横田久子からの収入金額三〇万七〇〇〇円についても、原告は当初これを認めていたが、右自白を撤回し右収入金は不存在と主張しているところ、成立に争いのない乙第一四号証、原告本人尋問の結果(第一回)により成立が認められる甲第四号証の一、二、原告本人尋問の結果(第二回)により成立が認められる甲第一五号証、原告本人尋問の結果(第一、二回)によれば、原告は横田久子から依頼を受けて、昭和四八年一〇月三日から一二月二六日までの間に三〇万七九〇〇円相当の鉄骨工事を行い、同月末日までに右工事を完了して横田に引渡し、同月末日切の請求書で右工事代金三〇万七九〇〇円を請求し、昭和四九年一月二一日横田から額面二〇万七〇〇円の小切手及び額面一〇万円(支払期日同年四月二〇日)の約束手形を受取ったことが認められる。

右事実によれば、横田からの請負代金三〇万七〇〇〇円は引渡しのあった昭和四八年分の収入であり、昭和四九年分の収入には含まれないから、原告の自白の撤回は真実に反しかつ錯誤に基づくものとして許されるべきである。

(六)  以上によれば、前記当事者間に争いがない分を含めた収入金額は、三七八七万六四五〇円である。

3  特別経費について

(一)  支払利子割引料について

成立に争いがない乙第一、第三号証、原告本人尋問の結果(第一、二回)によると、原告は昭和四八年五月二八日坂本市蔵から本件土地を取得したが、その費用にあてるため協和銀行長瀬支店から一五〇〇万円を借受け、その利息として昭和四九年中に合計一二五万五一五〇円を支払ったこと、右以外の原告の右銀行支店に対する支払利子割引料は、手形割引料三六万一九七五円、預金担保借入金利子四万六六五〇円、同戻り利息マイナス一万五五三三円、当座貸越利子一八〇円、右合計三九万三二七二円であることが認められる。甲第一号証の記載は前記乙第三号証と対比して採用できず、なお原告本人(第一回)は、本件土地の購入費にあてるため銀行借入金以外にも兄姉から約八〇〇万円を借受けたので、その利息を同年中に五四万円(毎月四万五〇〇〇円)支払った旨供述しているが、これを裏付けるに足りる具体的な証拠がないから、右供述は措信しがたい。

そこで、右認定の本件土地取得のための借入金利子が必要経費となるか否かを検討するに、業務用資産の取得のために要した借入金利子は、当該資産を既に業務の用に供している場合には、その業務から生ずる所得金額の計算上必要経費に算入することが認められるが、当該資産を業務のために使用開始するまでに支払われた利子は、当該資産の取得価額に組入れられ、必要経費への算入は認められないものと解すべきである。

しかるところ、原告本人尋問の結果(第二回)により成立が認められる甲第一六号証(一部)、証人平尾芳三の証言によれば、原告は昭和四九年五月頃から七月頃までの間北川貞子に対して本件土地を選挙事務所用地として貸与したほかは、同年中には本件土地を何ら使用せずに空地のままで放置し、鉄骨置場等の業務の用には供していなかったことが認められ、右認定に反する甲第一六号証(一部)、甲第二〇号証の記載、証人大山清一の証言、原告本人尋問の結果(第一、二回)は前記平尾証言と対比してたやすく措信できない。すなわち、平尾証人は、同人が昭和五〇年六月二日頃本件土地に臨場してその使用状況を調査したところ、本件土地は道路に面した部分に波板トタンを張りめぐらせた全くの空地で、一面に雑草が繁茂しており、鉄骨材料等は一切置かれていなかったこと、同人が昭和五一年一月頃本件土地の近隣住民に本件土地の昭和四八年五月から昭和五〇年一一月までの使用状況を尋ねたところ、本件土地は昭和四八年春頃からずっと野放しの状態で草がかなり生えていたので、付近の住民からの苦情により原告に草刈りをしてもらったことがあり、本件土地が鉄骨置場等として使用されていたことはない旨の回答があったこと、更に平尾が昭和五一年一月頃布施警察署上小阪派出所の警察官に本件土地の使用状況について尋ねた際にも、昭和四八年夏頃から昭和五〇年秋頃まで右土地には雑草がかなり生えていて防犯上問題視したことがあり、右土地上に鉄骨材料等を置いていた様子はなかったとの回答であったこと等を詳細に証言しているのであって、信用性が高いというべきである。

そうすると、本件土地取得のために要した前記借入金利子は、所得金額計算上の必要経費への算入を認められないから、支払利子割引料としては前記認定の三九万三二七二円のみが存在することになる。

(二)  これによれば、前記当事者間に争いがない分を含めた特別経費は、四七五万二二九三円である。

4  外注工賃について

(一)  高倉組関係

被告は、昭和四七年分と同様、当初は原告主張の高倉組に対する外注費一〇〇万円の存在を認めていたが、右自白を撤回しているので、その可否について検討する。

(1) 原告本人は、高倉組に対する外注費一〇〇万円はその殆どを原告振出の小切手で支払ったと供述しており、甲第二一号証にも高倉組は原告発行の小切手を原告の取引銀行に持参して現金化していた旨の記載があるが、昭和四七年分の外注費について説示したのと同じ理由で右支払の事実には疑問が存するだけでなく、原告が高倉組からの請求書や領収書を証拠として提出していないことからしても、昭和四七年分について述べたと同様に、支払の事実自体を疑わせるに足りる。

(2) 原告本人(第一、二回)は、主として持田工務店からの受注工事について高倉組にとび工事等の外注を依頼したとし、その具体的な内容を甲第五号証(持田工務店に対する請求書)に基づいて供述しているが、そのうち「一月九日職人手間二〇人」の工事については、甲第五号証の記載から明らかなように工事自体非常に小規模であり、とび工事を主体とする高倉組が右工事をしたものとは思われないし、「二月一〇日三菱玉出」の工事については、原告本人自身別の期日での尋問に際し、三菱玉出の工事に関しては新栄工業に一括下請させたため、とび職人を雇わなかったと供述しているから、供述内容に矛盾があって採用できず、「二月二三日南五階建」、「六月一〇日生野三階建」の工事については、甲第五号証の記載を見ても原告が右各工事について高倉組にとび工事の外注依頼をしたことを窺わせるものがない。なお、甲第二一号証についても、昭和四七年分の外注費につき触れたように信を措きがたいから、結局原告本人の供述はこれを客観的に裏付ける明確な証拠を欠き、にわかに採用できない。

そうすると、高倉組に対する外注費一〇〇万円の存在についてはこれを認めることができず、被告のした自白は真実に反しかつ錯誤に基づくものということができるから、右外注費についての原告の主張は失当である。

(二)  右によれば、前記当事者間に争いがない分を含めた外注工賃は、被告主張額の一三四九万九〇〇〇円である。

5  そうすると、原告の事業所得金額は、前記2の収入金額三七八七万六四五〇円から、当事者間に争いがない仕入金額九九六万〇九九四円、一般経費二七九万二一八八円、前記3の特別経費四七五万二二九三円、4の外注工賃一三四九万九〇〇〇円を控除した六八七万一九七五円であり、これに当事者間に争いがない利子所得金額二二万五〇〇〇円を加えた総所得金額は、七〇九万六九七五円となる。

五  結論

以上の認定及び判断によれば、本件各処分は被告の適法な調査手続に基づきなされたものであるうえ、原告の昭和四七年分の総所得金額は九三九万一八三〇円であり、昭和四九年分の総所得金額は七〇九万六九七五円であるから、その範囲内でなされた本件各処分には原告の所得金額を過大に認定した違法もない。

してみると、原告の本訴請求はいずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 青木敏行 裁判官 紙浦健二 裁判官 梅山光法)

別表一

昭和四七年分事業所得金額の計算

〈省略〉

昭和四九年分事業所得金額の計算

〈省略〉

別表二

昭和四七年分収入金額の取引先別明細

〈省略〉

昭和四九年分収入金額の取引先別明細

〈省略〉

別表三

昭和四七年分外注工賃の取引先別明細

〈省略〉

昭和四九年分外注工賃の取引先別明細

〈省略〉

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